真空管アンプが奏でる音色に魅せられる人は多い。真空管アンプはレコードやCDから得た微弱な電気信号を真空管を利用して増幅し、スピーカーを鳴らす装置だ。1960年代に入って、より低消費電力で、簡単な仕組みのトランジスターを使ったアンプが台頭。国内メーカーは生産中止。中高年のオーディオマニアが「手作りの音」を求めている。


真空管よみがえる 復古アンプ好調な販売 手作りの音に脚光

1996年3月23日、読売新聞

真空管--かつてはラジオやテレビ、ステレオなどほとんどの家電・音響製品に使われたおなじみの電気部品だったが、今ではIC(集積回路)やLSI(大規模集積回路)にとって代わられ、日本では、とっくに生産が打ち切られた。ところが、最近、有名メーカーが新たに真空管アンプを売り出したり、専門雑誌が特集を組んだり……と、にわかによみがえっている。遠い昔に授業で、その仕組みを学んだ中高年のオーディオマニアが、「手作りの音」を求めているのがブームの要因らしいが、あるいは、おやじたちのパソコン時代への反乱なのかも。

国内最後の真空管メーカーになったNECによると、真空管の最盛期は1950年代後半から1960年代半ば。当時、NECだけで月産10~15万本にも上っていたが、トランジスターへの切り替えが進んだ1969年に製造中止を決め、オールトランジスターテレビの出荷が本格化した1973年に生産を打ち切った。

以前は、中学校の技術家庭科で真空管の仕組みを学ぶことになっていたため、1960年代半ば生まれまでの機械好き少年だった人なら、「二極管」とか「三極管」という言葉に聞き覚えがあるはずだ。しかし、技術家庭科の教科書を発行している東京書籍によると、その真空管の項目も1978年度から削除されてしまったという。

「ラックスマン」のブランドで知られる「ラックス」(東京・東品川)が、復古調のデザインで真空管アンプを売り出したのは1995年秋。価格は35万円。ミニコンポが量販店で数万円で手に入る時代、決して安い買い物ではない。

ラックスも2年間で1500~2000台程度の生産を見込んでいたが、発売してみると、わずか半年間で1000台を売り上げた。販売促進部長の小川敏郎さん(49)は「正直言って驚いている。アンプの性能が向上して、音の“切れ”はよくなったが、“丸み”がない。その点、真空管は人の声や弦楽器を“柔らかく”再生してくれる。仕組みもわからないパソコンやワープロの操作を迫られている中高年が、そんな“テクノストレス”からの解放を、昔懐かしい真空管に求めているのではないか」と分析する。

復帰参入を果たしたラックスに対し、これまで真空管アンプマニアの市場を支えてきたのは、わずかな従業員で細々と作り続けてきた町工場だ。

その一つ、「マックトン」の社長、松本健治郎さん(64)の自宅兼仕事場は、環状八号線近くの東京・杉並区内の住宅地にある。玄関横の6畳ほどの居間がオフィス、その奥の4畳半が作業場。特大の試聴用スピーカーのほか、工具や部品が所狭しと並べられている。

会社設立は1964年。中学時代から電気回路に興味があったという松本さんにとって、真空管いじりは日課の一つだった。電機メーカーに勤めていたが、自ら設計した真空管アンプを売ってみたいと思い、脱サラの道を選んだ。

当初は十数人の従業員を雇っていたが、世の中は一気にトランジスター時代に。やむなく、大幅に規模を縮小し、社長一人で組み立てる「手作り品」の製作に転換せざるをえなかった。肝心の真空管も手に入りにくくなり、商社を通じて海外の在庫品を購入しては細々と操業を続けた。

息を吹き返したのは、東欧の民主化やソ連崩壊で、東側の軍事用真空管が西側に流出したのと、中国の真空管生産が軌道に乗った1990年代に入ってからだ。中高年ばかりでなく、真空管を知らない若い世代からも、製品カタログの問い合わせが来るようになった。

電源を入れると、むき出しの真空管に赤い灯がともる。アンプのデザインも手作り感覚がにじむ。

「真空管アンプは回路も簡単。少し知識があれば、故障しても、すぐに直せる。LSIではそうはいかない。手触りというか、自分で理解できる点が受けて、電気製品の原点みたいな真空管が復活してきたのではないか」と松本さん。

自社ブランド「マックトーン」は、1台39万円からと、これまた安くはない。独自の販売ルートを持たず、全国10か所くらいのオーディオ専門店の注文に応じて、宅配便で出荷しているが、月産6~7台のペースだ。

運輸省航空事業課長の丸山博さん(47)は、自作の真空管アンプでイタリアオペラを鑑賞するのが何よりの楽しみだ。1994年、ふと「アンプ作り」を思い立った。休日になると東京・秋葉原の電気街に通い詰め、部品集めに半年を費やした。いろいろな回路見本を参考にしながら組み立てるのにさらに半年。結局、1年掛かりの“工作”になってしまった。費用も20万円ほどかかったが、「真空管を使うと、弦楽器がふわっと響き、歌声も柔らかい。オペラにはうってつけなんです」。難題を抱え込んだ時に、自作のアンプでオペラを聴くのが、丸山さんの最高の気分転換だ。

そんなマニア向けに1996年3月初め、秋葉原で真空管だけを販売する専門店「クラシック コンポーネンツ」が新たにオープンした。店内にはさまざまな形をした約300種類の真空管がずらりと棚に並ぶ。1本数百円から3万5000円まで。

「客層が限られているので採算がとれるかどうかわからない」とマネジャーの浅野三千男さん(42)。おっかなびっくりの開店ではあるが、もちろん勝算がないわけではない。この真空管ブームを、“本物”と読んでのチャレンジだ。

真空管アンプ 観音堂で聴く きょう那古寺で鑑賞会 館山の佐久間さん製作

2009年10月10日、中日新聞

【千葉県】館山市那古の那古寺観音堂で2009年10月10日、自作真空管アンプ製作者として全国的に知られる洋食店経営佐久間駿さん(66)=千葉市北条=の真空管アンプ鑑賞会が開かれる。千葉市制施行70周年記念事業で、主催する千葉市教育委員会は「平成の大改修を終えたばかりの観音堂で深まり行く秋を感じながら、真空管アンプが奏でる音色を心ゆくまで楽しんでほしい」とPRしている。入場無料。

佐久間さんは千葉市内でレストラン「コンコルド」を経営する傍ら、真空管アンプの製作を趣味にしている。これまで奈良の中宮寺や高野山大講堂などで、真空管アンプのオーディオコンサートを開催。パリや米国シアトルでもコンサートを開くなど海外でも活躍している。オーディオの専門誌にコラムを連載し、真空管アンプの世界で知らない人はいない。

真空管アンプは、現在主流のトランジスタ(音声信号増幅器)が発明される前に、テレビやラジオなどのオーディオ製品に使用された。トランジスタと比べ音がやわらかく、耳になじむと根強いファンがいる。

鑑賞会は、千葉市が佐久間さんに打診して実現。真空管アンプと業務用の大型スピーカーでシャンソン、クラシック、ジャズ、歌謡曲などを再生する予定。

会場の那古寺は717(養老元)年、僧行基が創建したと伝えられる真言宗智山派の寺で、坂東三十三カ霊場の結願(けちがん)寺。鑑賞会のタイトルは「南総一の名刹(めいさつ)に球が灯(とも)る夕べ」で午後4時半開場、午後5時開演。佐久間さんは「コンサートは曲の説明などもするので午後9時ごろまでかかると思う」と話している。

真空管アンプ 光れ 自分だけの音

2017年5月15日、読売新聞

Styleプラス

奥行きがあってふくよか--。真空管アンプが奏でる音色に魅せられる人は多い。実験器具を思わせるガラス管がほのかに発光する様子には独特の美しさがある。

真空管は微弱な電気信号を増幅する装置で、真空で金属を熱すると電子が大量に発生する仕組みを利用している。

オーディオ部品などとして1970~1980年代まで日本やアメリカで大量に生産されたが、安価で消費電力の少ない半導体にとって代わられた。現在流通しているのは、備蓄されていたものや今も生産を続ける中国、ロシア製が主だ。

真空管アンプを見かける機会は減っているが、「音が自然」「艶がある」などと根強い人気がある。東京・秋葉原の「オーディオ専科」では、真空管の販売のほか自社製作のアンプも取り扱っている。

「FOX-BAT」(税抜き12万2500円)は、旧ソ連の戦闘機ミグ25にも使われていたとされる真空管を用いたという。左右対称のすっきりしたデザインが人気。「PROFESSOR-2」(税抜き13万6000円)は、音のゆがみや雑音が少ないと好評だ。

店長の森川雄介さんによると、部品を買い集めアンプを自作する人も多い。「どの音域を重視するかなど好みは人それぞれ。真空管を付け替えたりしながら、自分が求める音に近づけていくところに醍醐(だいご)味があるようです」と話す。

千葉県館山市の佐久間駿(すすむ)さん(74)はレストラン経営の傍ら、150種類を超える真空管アンプを製作してきた。半年ごとに、新作アンプによる音楽鑑賞イベントを開く。「真空管アンプの魅力は豊かな中低音。柔らかくて優しい音色は聞いていて疲れない。理想は、曲ごとに最適なアンプを用意すること。まだまだ作り続けたい」

真空管アンプには、デジタル製品にないぬくもりがある。「オーディオ専科」の森川さんは「熱せられた金属が光を発し、音を増幅させようと働いているのが目でもわかる。そうした手応えが感じられるのも魅力」と話す。

最近は、スマートフォンにつないで楽しむ、持ち運び可能な真空管アンプも登場している。イーケイジャパン(福岡県)の「TU-HP01」(税抜き1万9000円)。その音は、真空管を知らない「デジタル世代」にどんなふうに響くのだろうか。

「再生」もアナログに光

アナログ式の「録音再生機器」と言えばレコードプレーヤー。こちらも近年、人気が高まっている。

東京・秋葉原の「ダイナミックオーディオ トレードセンター」は、最盛期の1970年代に国内外で生産された状態の良い中古品や最新の上位機種などを扱っている。

レコードプレーヤーは年配の人には懐かしく、若い人には新鮮に感じられ、ちょっとしたブームだ。ダイナミックオーディオ トレードセンターでも随時、試聴会を開くなど力を入れている。企画担当の佐藤泰地さんは「アナログ式のオーディオには、音楽そのものだけでなく、その場の空気感まで再現する力がある。音楽好きをワクワクさせるロマンがある」と話す。

中には、100万円を超える高級品もあるが、大切に手入れをしていれば、何十年と使い続けられるという。「しっかり作られた良いものには、世代を超えて愛される魅力が備わっている」と語る。

真空管アンプ 自作キット人気 豊田自動織機子会社が販売=中部

2010年6月18日、読売新聞

トヨタ自動車グループの豊田自動織機の子会社、サンバレー(愛知県刈谷市)が企画・販売している「真空管アンプ」の自作キットが団塊の世代を中心とした音楽ファンの間で人気を集めている。豊潤で温かみがあるという独特な音色と、自ら作り上げる達成感が人気の秘密のようだ。

社内提案が発端

真空管アンプは、レコードやCDから得た微弱な電気信号を真空管を利用して増幅し、スピーカーを鳴らす装置だ。1960年代に入って、より低消費電力で、簡単な仕組みのトランジスターを使ったアンプが台頭。国内メーカーは、耐久性で劣る真空管アンプの生産中止を余儀なくされていった。

サンバレーは、もともと豊田織機の社員向けに日用品を販売する会社だが、1998年に、音楽ファンで、社員の大橋慎(まこと)さん(45)(現取締役)が「モノづくりの楽しさを真空管アンプのキットの販売で伝えたい」と社内で提案。当時の社長に「面白い」と認められ、自ら事業にかかわることになった。

大橋さんは、小学校時代からはんだごてを持ち、ラジオを製作していたオーディオマニア。良い音を鳴らすためのアンプの企画は大橋さんが行い、自作キットの部品は、約30社のメーカーから調達している。

1998年の販売当初は、3か月間も問い合わせが全くなかったが、音楽雑誌などに広告を出してファンを開拓。2002年にインターネット販売を始めると、人気に火がつき、販売台数は2002年度の約2000台から2007年度には約6000台と3倍に伸びた。

団塊世代つかむ

サンバレーの推計では、真空管アンプ市場の約4割を占めるトップ企業に成長した。

躍進の秘訣(ひけつ)は、モノづくりの楽しみにある。電子部品をはんだ付けしたりしてキットを組み立てる。特に子供のころ真空管のラジオをつくり、その音色に親しんだ団塊の世代の心をつかんでいるという。

2010年6月の5~6日には東京・秋葉原で試聴会が行われ、約300人が参加した。神奈川県海老名市の森裕君(ひろきみ)さん(52)は「完成して音が鳴った時は、我が子が生まれたようにうれしかった。作り方を教え合ったり、ファン同士の輪も広がった」と手作りの音の醍醐(だいご)味を語る。

ネット販売によって経費を徹底的に削減、価格も比較的安価なのも特徴だ。真空管アンプの価格は高いもので数十~数百万円もするが、サンバレーの売れ筋は10万円前後と値ごろ感もある。

大橋さんの目標は「団塊の世代に限らず、真空管アンプを多くの人に楽しんでもらう」ことだ。現在は、愛知県刈谷市にしかショールームはないが、東京にも出店するのが夢だ。問い合わせは、サンバレー通信販売専門店「ザ・キット屋」まで。